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顔認証システムとは個人の体が持つ特徴によって認証を行う「生体認証システム」の1つです。数ある生体認証のなかでも使いやすく導入しやすいというメリットをもっています。
顔認証システムを、ごく簡単に説明してしまえば、カメラで撮影した画像から人の顔を見つけて同一人物かを判断するコンピュータ・システムです。顔“認識”システムという場合もあります。認識と認証の違いは、画像のなかから顔を検出する場合を認識、認識した顔のデータを事前に登録されたデータとの照合する場合を認証、と考えておけばわかりやすいでしょう。
顔認証システムでは、AIが撮影された画像から人の顔を検出し、登録されているデータと照合するまでの一連の処理を行われます。検出のスピードと照合の精度によって、それぞれの顔認証システムに機能の違いがでます。
顔認証システムは、
の組み合わせで種類がわかれます。それぞれにコストとメリットがあり、顔認証システム導入の目的や環境にそって検討されるべきものです。
主に、建物の天井に設置された防犯カメラやドーム型の広角カメラを使用します。不特定多数の人がたくさん通過する場所で、対象者に意識されることなく撮影されますので、対象者に負担を感じさせることなく認証がおこなわれます。
スマートフォンやノートパソコンなどのデバイスに内蔵されたカメラに、対象者が顔を向けることで認証がおこなわれます。近年のコロナ禍によって、非接触検温機のタブレットのカメラを利用する顔認証システムも普及しています。
クラウド型の顔認証システムは、インターネットを介してデータをクラウドに送りAIで認証を行うため、専門の装置を準備しなくても以前からある防犯カメラで撮影した画像をそのまま使用することもできます。
クラウド型ではグローバルIT企業を中心に顔認証APIが提供されており、それらを活用してシステムを構築する場合が多いのですが、独自開発した顔認証システムをクラウドで提供しているAIベンチャー企業もあります。
エッジ型はクラウド上でおこなうことを手元エッジのコンピュータ内で全ておこないます。インターネットを介さないことからデータ処理のスピードが安定する点、通信費がかからない点、個人情報である顔データが外へ通信されることがなく安全である点がメリットです。
撮影された顔の画像に座標をあてて鼻や目、口といったパーツの位置を計測しデータ化します。そのデータを事前に登録されている顔パーツの座標データと照合して個人の認証を行う方式です。
髪型やカメラの設置環境の影響を受けやすく認証精度が落ちる場合がありますが、以前から設置していたカメラが活用できるため導入コストを抑えられるというメリットがあります。
赤外線カメラによって顔の凹凸までを検出してデータ化し認証を行います。2D顔認証に比べて髪型やカメラの設置環境の影響を受けにくく認証精度は高くなりますが、専用のカメラが必要で導入コストが割高になります。
顔認証システムが注目されているのは使いやすく導入しやすいからです。日本社会全体のトレンドとなっているDX(デジタルトランスフォーメーション)促進のスタートに最適なうえに、コロナ禍のなかで専門の機器に接触する必要がない顔認証システムは衛生的にも適したもので、出勤自粛のなかで定着したテレワークでの勤怠管理にも適していたからです。
顔認証システムを導入するためハードルは低いので、即日に導入することが可能です。だからこそ、コロナ禍のような緊急事態の世の中に求められたのです。
顔認証システムは、対象となる人物がみずから意識して認証しなくても認証できることがあります。
指紋認証や音声認証といった他の生体認証システムでは、対象者が指紋を専用装置に合わせたり、マイクに向かって話したりしないといけません。それに対し、顔認証では対象者が顔を向けなくても、カメラの画像に顔が映りさえすれば検出できます。
専用のカメラを設置しなくても天井の防犯カメラが撮影した画像から顔認証ができます。エッジ型のようにエッジコンピュータを置く場合も、指紋認証や音声認証などの設備に比べれば入手しやすく安いものがほとんどです。
カメラは現在、ノートパソコンやスマホなどさまざまなデバイスに内蔵されています。デバイスで撮影された画像をそのまま認証システムに取り入れられる点は、顔認証システムの大きな特徴となっています。スマホを立ち上げたとき、ノートパソコンをひろげたとき、自動的に認証できるのです。
コロナウィルス感染拡大によって定着しているテレワークも、顔認証システムが注目される理由にあります。自宅で業務用パソコンを広げたときに認証され、その時間が勤怠システムに打刻されるシステムですので、社員がそれぞれ新たな機器を購入する必要もありませんし、管理する側も顔を確認して勤怠を管理することができます。コロナ禍でのビジネスパーソンにこそもっとも相性のよい認証システムが顔認証だったのです。
顔認証システムは大きくは画像認識システムに分類されます。画像認識システムは2000年代以降に大きく発展し第3次AIブームを巻き起こしました。「ディープラーニング」と呼ばれる人間の脳神経回路(ニューロン)をモデルにしたネットワークのよる解析技術によって、最初に進化したAIの分野は画像認識でした。ディープラーニングによって、「コンピュータが眼をもった」といわれるほど画像認識の能力は飛躍的に進化しました。
顔認証システムは多くの人が使えば使うほど、ほとんど自動で便利で間違いの少ないシステムになっていきます。
顔認証でいえば、たとえば人の顔画像を何枚も取り込む──言い換えれば、人が何度も撮影される──ことで、顔認証システムのAIはそれぞれの人の顔の特徴を覚えていきます。選択した画像に対して「これはAさんですよ」と学習させると、顔認証システムのAIはAさんの顔を検出し登録データと照合し、認証するようになるのです。
顔認証システムを使うごとにデータ量は増えますので、学習量も進んでいくので、したがって顔認証システムはますます便利になるのです。
2020年以降、世界的に猛威を振るう新型コロナウィルスによって多くの人々がマスクなしに生活できなくなっています。これによって、普及しかけていた顔認証システムも大きな影響を受けました。というのも、マスクを装着した人の認証精度が極端に低下したためです。
このマスクでの顔認証という課題に対して、顔認証システムを開発してきた大小のIT企業はさまざまな改修を行いました。目元を中心とした画像による顔認証システムを開発したり、マスクなしの画像にマスク情報を付与しAIに学習させたり、顔を輪郭形状で捉えマスクのあるなしにかかわらず顔全体で認証を行うシステムを開発したり、様々なアプローチで試行錯誤し、マスク顔認証精度も改善されてきました。
顔認証システムが認証を誤る場合には次の2つがあります。たがいに関係があり、この2つの誤認証を調整することで、環境や用途に最適な認証精度を求められるのです。
本来は照合できない人を照合してしまい、他人を対象者として認証してしまうことです。他人を受け入れてしまう確率を「他人受入率(FAR)」と言います。
本来は照合すべき人を照合できずに、対象者を認証できないことです。本人を拒否してしまう確率を「本人拒否率(FRR)」と言います。
世の中にはさまざまな認証システムがあります。カードやスマートフォンなどで行う物体認証や暗証番号・パスワードによる記号認証、そして顔や指紋、声などの身体的な特徴による整体認証です。
顔認証システムには生体認証だけでなく、他の認証システムにはない4つのメリットがあります。
現在、多くのデバイスがカメラを搭載しています。そのため、顔認証システムを使用する場合は新たな装置を必要としません。これは、他の生体認証システムに比べても優位な点になっています。
指紋認証や虹彩認証、あるいはカード認証、パスワード認証など、ほとんどの認証システムは対象者がみずから意識して認証を行わなければなりません。しかし、顔認証システムはカメラが顔を捉えられれば自動的に認証を行います。これも、顔認証システムの大きなメリットと言えるでしょう。
カメラで人の顔を捉えられれば認証を行えるため、対象者は認証用の機器に接触する必要がありません。コロナ禍以降、非接触による認証は大いに注目されるようになりました。顔認証システムが非接触で利用できる点は、そのメリットの1つです。
他の認証システムは対象者にとってもさまざまなデバイスの携帯、IDやパスワードの管理が必要となります。それに対し、顔認証システムは顔さえあれば認証が可能です。対象者は手ぶらでいつでも認証できます。これも顔認証システムのメリットになります。
顔認証システムは、すでにあるカメラを利用できる反面、カメラの機能や設置場所によって認証精度に影響が出ることがあります。鮮明な画像が得られないと認証ができないこともあるのです。
また、顔画像データは個人情報保護の観点から厳重な管理が求められるため、導入後の運用にも十分な注意が必要になります。
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顔認証システムは、総合的にみると非常に導入しやすいため、すでに多くの場所で導入が進んでおります。現在、企業課題となっているDXにおいてもAI導入はその核心であり、AIのなかでも顔認証システムはもっともスモールに導入でき、メリットも高いものです。そのため、顔認証システムの使い方も各業界、各企業によってさまざまあります。企業ごとの課題に対応しうるポテンシャルをもったシステムなのです。
事前に登録された顔画像と建物などの施設への出入りの際に撮影された顔画像とで認証をおこない打刻するシステムは広く導入されています。
代表的なものは、オフィスにおいてパソコンなどのデバイスで顔認証して勤怠システムと連携して管理される例です。これまでのタイムカードやウェブでの打刻など、なりすましが容易な認証に比べ、顔認証ではそうしたことができないためニーズが高まっています。
多数のチェーン店を経営し本部で管理するような企業では、それぞれの店舗への従業員の出退勤の管理を確実に行えないことが課題になっていました。顔認証システムを導入したことで、リアルタイムで各地の店舗の出退勤が管理でき、なりすましもできないため、より確実な管理が可能です。近年ではコロナウィルス感染拡大防止策として、出退勤時の検温データも同時に記録するシステムも普及しています。
工場や倉庫など多くの人がシフトごとに出勤、退勤がかさなる場所での利用にもメリットを発揮しています。精密機械製造工場や食品工場などで、正しい作業服の装着を確認する機能を追加するシステムもみられます。
会員制のビジネスはとくに顔認証システムと相性がよいものです。顔認証によってクラブやジムへの入退場を無人で管理できるため、人件費削減の用途で導入されています。
空港や病院といった公共施設で顔認証システムの導入が進む背景には、非接触で認証が行える点があります。従来、防犯カメラの設置が進んでいたことも導入を促進しています。
鉄道やバスなどの公共交通機関への乗降時の管理に顔認証システムを導入する例も今後、増えていくとみられています。
これまでのリテールマーケティングではPOSレジなどによるデータ取得が主でしたが、顔認証システムならレジを使用しない──支払いをしていない──来店者のデータ取得も可能になります。
登録された顧客に対しポイント付与や割引などの施策を行う際にも顔認証システムは有用です。
もともと店舗内に設置されていた防犯カメラを活用して、来店客のデータを取得する目的で顔認証システムの導入が進んでいます。顧客の来店時間、滞在時間、性別/年齢などの属性、リピーター判定などのデータ取得を行なっています。
キャンペーン施策でも、顔認証システムを使用してポイント付与を行うなどの例も見られます。顧客はスマホもポイントカードも不要です。さらに一歩すすんで、顔認証システムによる決済まで行われる例もでてきています。
ホテルでスマートキーと連動してチェックイン/チェックアウトに使用される例も増えています。決済までもフロントを通さず行うことが可能になっています。
アミューズメント施設での人流の分析に顔認証システムが使用される例があります。アトラクションごとの利用頻度や、アトラクションからアトラクションへの人の流れなどを分析しています。
より大掛かりなものでは、数キロ範囲の観光地内の施設間での人の流れについての分析を顔認証システムで行う例もあります。
入退店の管理に顔認証システムを導入するだけなく、画像認識によって手にとった商品を認識して価格を判断、来店者の口座から決済を行うといったことまでを行う店舗も実証実験のレベルでは現れています。
なお、Amazonが経営する無人店舗「Amazon Go」など、海外では数年前から実用が進んでおり、国内でも一気に無人店舗が増えそうです。
DX化が進むなかで、AI導入の第一歩として顔認証システムの普及が進んでいます。他の認証システムに比べて、新たな設備が要らず安価に設置できる顔認証システムは、なるべくリスクをすくなくAI導入、DX化を促進するうえで最適だからです。
導入しやすく安価な顔認証システムでも、その効果は大きなものが期待できます。うまく活用することでビジネスに革新をもたらしうるシステムなのです。それは業界も企業も問いません。
顔認証システムをうまく導入した企業ほど、DX化を加速させ業務改善、事業変革に成功する傾向さえあると考えられます。